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リンと老化と腎臓

みなさんいつもありがとうございます!
今回は、「腎臓が寿命を決める」という本を勉強しました。

著者の黒尾誠先生は、自治医科大学分子病態治療研究センターの教授で(詳しくは最後に)
1991年には、国立精神神経センターでの実験中に突然変異マウスを発見したことをきっかけに、余分なリンを腎臓から排出させる老化抑制遺伝子「Klotho(クロトー)」を発見されました。

この本は、老化には「リン」が関係し、さらに腎臓の機能と大きな関わりがあり、
さらに、腎臓の機能をこわさない(老化スピードを遅くする)ための方法も教えてくれています。

以下、ざ~~~っくりまとめてみました。

実験方法も詳細に記載されており、結果が証明されるまでの仮説と検証も詳細に書かれておりましたが、話が複雑になってわかんなくなってくるので、そこはだいぶん端折りました。

それでも結構ボリュームがあるので、ずばり!最後のところが大事なところ!

また、( )内の言葉はわたくしのつたない感想です。


1.老化の新たな視点=リン

従来の老化研究は大きく分けて二つの流れがありました。

一つは「種を超えて保存されている老化のメカニズムの追求」で、これにより適度なカロリー制限が老化を抑制することが明らかになりました。

(サーチュイン遺伝子のことかな?)

もう一つは「細胞老化のメカニズムの研究」で、「老化細胞」の蓄積が個体の老化を加速させることが判明しています。

その中で、現代を生きる人類に特異的な老化加速因子として「リン」に注目されました。


2.リン

ちなみに、
リンは水素、炭素、窒素、酸素、硫黄と共に「生命に必須の6大元素の一つ」であり、

・細胞膜の主要成分、
・DNA/RNAの核酸、
・エネルギー通貨ATP、
・タンパク質のリン酸化、
・骨の主要成分(リン酸カルシウム)

など、生命活動に不可欠な役割を担っています。

特に、リン酸カルシウムは「脊椎動物にのみ特異的な物質」です。
そう、脊椎動物のに関係しています。(これ、後ほど重要!)


3.Klotho(クロトー)遺伝子の発見


まず、
黒尾教授がリンに着目するきっかけとなったのは、30年以上前の実験中に偶然作成された
「突然変異マウス」でした。

(どうやら、失敗によって作成されたマウスのようです。)

この突然変異マウスは、

・薄い皮膚、
・湾曲した背中、
・筋力低下(サルコペニア)、
・不妊、
・動脈硬化を伴う血管石灰化、
・骨粗鬆症、
・難聴、
・認知機能低下

など、様々な症状を呈し、「早死に」しました。

これらの症状は「あたかも老化症状が加速したかのよう」であったので、遺伝子が変わったことで、このマウスが「老化加速」したのではないかと考えられました。

6年の月日をかけて、この突然変異の原因遺伝子を特定し、
この新たな遺伝子を「Klotho(クロトー)」と名付けられました。

このクロトー遺伝子が欠損した(ない)マウスは、老化が加速したような症状を呈することから、

クロトー遺伝子には「普段は老化を抑制する働きがある」と考えられました。




4.Klotho(クロトー)欠損マウスの病態とリンの蓄積

Klotho(クロトー)欠損マウスが、なぜ様々な老化が加速したような症状になったのかを調べると、リンを摂取しても、尿中へのリン排泄が増加しないことがわかりました。

つまり「リンの恒常性が破綻して(バランスが保てなくなって)、体にリンが溜まってしまう」ことが判明しました。

逆に、

Klotho(クロトー)欠損マウスであっても、

与える餌のリン含有量を減らしたところ、
リンの貯留が解除され、老化様の症状も消失し、平均寿命も延びることが確認されました。

このことから、「リンが老化を加速していた原因である」ことが明らかになりました。



5.細胞毒としてのCPPと老化への影響

さらに、
リンが老化を加速するメカニズムを探るため、細胞培養実験を行ったところ、培地中のリン濃度を上げると細胞が死ぬことが分かりました。

つまり、
高濃度のリンは「細胞毒として働く」のです。

また、
リン濃度を上げた培地が濁ることに着目し、電子顕微鏡で観察すると「カルシプロテインパーティクル(CPP)」として知られている物質であることが判明しました。

逆に、
CPPの形成を抑制する薬物(ビスフォスフォネート)を培地に添加すると、リン濃度を上げても細胞死が全く起きないことが分かりました。

このことから、リンの細胞毒性はリンそのものではなくCPPが原因」であることが確定しました。

CPPは、血管内皮細胞の細胞死を誘導し、血管平滑筋細胞の石灰化を誘導します。

さらに、マクロファージなどの免疫担当細胞に作用すると「炎症(自然免疫反応)を誘導する」活性を持つことが明らかになりました。


6.血中CPPと、老化と、慢性腎臓病

「年齢」と「血清リン濃度」の二つの因子が、血中CPPレベルの因子として残りました。

つまり、

年齢が上がるにつれて
また、
血中リン濃度が上がるにつれて、

血中CPPレベルは増加することが判明しました。

また、血液透析患者さんでは、高リン血症を呈する場合が多いため、血中CPPレベルが非常に高いことが確認されました。

興味深いことに、血液透析患者さんの症状は、
老化加速モデルであるKlotho欠損マウスの症状(血管石灰化、骨量減少、サルコペニア、難聴、認知症、寿命短縮など)と「非常に多くの点で類似」しています。

血液透析患者さんの腎臓は

機能が壊れ、Klotho遺伝子も少なく、
尿中にリンを排泄できないため、
リンの貯留が起こり、
高リン血症と高CPP血症を呈します。

ちなみに、透析患者の治療としてリン吸着薬が使われています。

つまり、「リンがCPPになることで、老化を加速する病原体に変わる」ということです。



7.過剰なリン摂取と腎臓への影響

リンの過剰摂取は、腎臓でのリン排泄を促進するという、フィードバックが働きます。

しかし、この状態では尿中のリン濃度が上昇するため、

全身の臓器の中で「尿を生成する腎臓だけが高濃度のリンに晒される」ことになります。

実際に高リン食を摂取させたマウスの腎臓を調べたところ、

尿細管障害や間質の線維化といった「腎障害」が発生することが確認されました。

このメカニズムは、

リンの過剰摂取によって、
 ↓
尿中のリン濃度が上がり、
 ↓
さらにそのリンの細胞毒性によって、腎臓の機能単位(ネフロン)が壊れ、

さらに、残りの一つ一つのネフロンが処理するリンの量(負担)が増えて、

また一つネフロンが壊れていく。。。

という、悪循環におちいります。

そして、行き着くところは、慢性腎臓病(CKD)なのです。

(このへんの流れは、めちゃめちゃ端折ってます。)


8.慢性腎臓病の現状

さて、慢性腎臓病(CKD)は、日本人の成人5人に1人が罹患していると言われる国民病です。

その医療費は年間約8兆円、

進行して腎不全に至り透析や腎移植が必要となった場合の直接経費は年間1.6兆円にも上ります。

透析患者の5年生存率は約60%と、決して予後も良いとは言えません。

慢性腎臓病CKDの予防と透析導入数の削減は、現在の医療における緊急の課題です。



9.リン制限食の新たなアプローチ

さて、普段の生活で、腎臓病を予防する手はあるのでしょうか?

現代の日本人の食生活は、

平均で1日1〜1.2gのリンを摂取しており、
そのうち700〜900mgが尿中に排泄されています。

これは「リンの過剰摂取状態」であると言えます。

従来のリン制限の食事療法は、リンを多く含む食材を避けるというもので、
タンパク質摂取量とリン摂取量が相関するため、低タンパク質食となってしまうという問題がありました。
これにより栄養状態が悪化し、サルコペニアなどを招き、予後が悪化するリスクがありました。

そこで、黒尾先生は「タンパク質制限なきリン制限」を提案しています。

加工食品中のリンを含む食品添加物を避ける:日本人が摂取するリンの約2割は食品添加物由来であることが分かっています。

リン酸塩と明記されていなくても、pH調整剤、乳化剤、かん水、膨張剤などにはリンが含まれていることが多いです。

これらの情報を提供し、教育することで、リンの摂取量を減らせることが示されています。

また、
タンパク質源を動物性から植物性に置き換える:植物性食品中のリンは動物性食品中のリンよりも消化管からの吸収率が低いという事実があります。

動物性タンパク質源を植物性に置き換えることで、リン排泄量を2〜3割減らせるという臨床研究の結果も出ています。

まとめると、

・加工食品中のリンを含む食品添加物を避ける!
・動物性タンパク質源を、植物性に置き換える!



10.リンの体内動態と骨、運動、薬物療法

血中へ流入するリンは先程のような、食事由来の「外因性のリン」だけでなく、

骨量減少などによって骨から溶出する「内因性のリン」も存在します。

この内因性のリンも、ネフロン減少の悪循環を回す原因となると考えられています。

骨量減少の原因としては、

骨粗鬆症、
絶対安静を強いられるICUなどの状況、
さらには宇宙飛行士の無重力空間滞在

などが挙げられます。

地上で注目すべきは「座りすぎ」という状態です。

現代の生活様式では、座っている時間が非常に長く、これが死亡率や心血管病による死亡率を高めることがデータで示されています。

さらに、座る時間が長いほど骨密度が減少することも分かっており、骨量を減らさないためには「座る時間の削減が有効な第三の運動療法」となるのではないかと期待され、臨床試験が実施されています。

ただし、食事と運動によるリン流入量の削減が不十分な場合は、薬物療法が必要となります。

リン吸着薬の他、CPPの形成を直接阻害するマグネシウム、亜鉛、ビスフォスフォネートなどの薬剤が慢性腎臓病に有効である可能性があります。

腎不全予防のまとめ

・タンパク質制限なきリン制限による食事療法(前章)
・骨量や筋肉量を維持するための運動療法(座る時間の削減も含む)
・原尿中CPPの形成を抑制するための薬物療法(今後に期待)




11.生物の進化とリン、そして現代人

さて、これから話がちょっと大きくなります。

人体と海水の構成元素は非常に似ていますが、

海水でマグネシウムが多いのに対し、

人体ではリンが多量に含まれています。

これは、約4億年前のデボン紀に「硬骨魚類」が出現し、

リンをリン酸カルシウムの形で骨に大量に蓄えるようになったことに由来します。

リン酸カルシウムは炭酸カルシウムよりも硬く丈夫な骨を形成できるため、

水中の浮力に頼らずに陸上に上がり動き回る「陸上脊椎動物の進化」を可能にしました。

(なるほど!地上の重力に耐えるには、丈夫なリン酸カルシウムが必要だったんですね!!)

Klotho遺伝子はリン酸カルシウムの骨を持つ動物(硬骨魚類以降の脊椎動物)にのみ存在し、

それ以前の生物には存在しません。

このことから、Klotho遺伝子は「リンの恒常性維持のために進化してきた遺伝子」であると言えます。

そして、
リン酸カルシウム製の丈夫な骨を獲得したメリット(陸上進出、天敵からの回避など)の一方で、

「リン酸カルシウム沈着(CPPなど)による老化加速のリスク」という、デメリットも同時に獲得した、

という「トレードオフの関係」が考えられます。




12.人とネコちゃんの腎臓

また、

ヒトは体格の割にネフロン数が極端に少ないという特徴があります(平均約100万個)。

興味深いことに、慢性腎臓病を自然発症する動物種は「ヒトと猫だけ」なのだそうです。

(犬はどうなんだろう???)

猫も、ヒトと同様にネフロン数が少なく、

高齢になるとほぼ100%の確率で腎機能が低下し、腎不全に至ります。

これは、ネフロン数の少なさと、リン代謝の関連性を示しています。



13.まとめと展望

現代を生きるヒトは、体格の割にネフロン数が極端に少ない種である。

加工食品などに含まれる食品添加物から「リンを過剰摂取」している。

座りすぎの生活様式により「骨量が減少するプレッシャー」がある。

これらの条件が揃っているため、リンによる腎障害加速の条件が整っており、

リンは「現代を生きる人類にとって重要な老化加速因子」であると言えます。

塩分の摂りすぎが高血圧を引き起こすという事実が常識となり、減塩が普及して多くの命が救われたように、将来的に「リンが老化を加速する」という概念が常識となり、「減リン」という考え方が普及すれば、人類の健康寿命が伸びる可能性が高いと期待されています。

(減塩には諸説あるようですが…)

と、いうわけで長々と書きましたが、
腎臓を守り、老化を防ぐには・・・

・リンを摂らない!
  加工食品に注意!
  動物性よりも植物性タンパク質を!

・骨量や筋肉量を維持するための運動療法(やっぱり運動!)

そう、これが、

  腎活!
(じんかつ)

黒尾 誠先生について

自治医科大学 分子病態治療研究センター
ミネラル代謝研究部  教授 医学博士 黒尾 誠先生
自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授。
1985年、東京大学医学部医学科卒業。
91年、国立精神・神経センターでの実験中に突然変異マウスを見つけたことを発端に、
余分なリンを腎臓から排出させる老化抑制遺伝子「クロトー」を発見。
脊椎動物の老化抑制遺伝子の発見は世界初の快挙となった。
98年、米テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターの助教授に就任、2012年に教授に。
帰国後、現職。腎臓とリンの関係から老化の仕組みを解明する研究を続けている。